TODAY、僕は飛行機で東京へ帰る予定だった。


仕事をものすごい勢いで片付け、上司にも

『今日ハンパなく早く帰ります。18時30分には

僕帰ります。金曜日なのに僕は早く帰るのです』

と、空港へ向かった。


僕はいつも飛行機に乗るときもギリギリだ。

時間にルーズなのだ。この前の出張時も

フライト7分前に空港に着いた。ちなみに

新幹線の時はいつも2分前に駅に着く。

いっつも走ってギリギリで生きてる自分に

酔いしれる。カトゥーンばりにギリギリで生きてる。


今日はなんと20分前には空港についてしまった。

ギリギリで生きていない自分を情けなく思いつつも、

空を見上げれば強風と雨だ。僕はとっても飛行機が

嫌いだ。高いとこ嫌い。観覧車では手すりにしがみつきっぱなし

だし、あんまり高いエレベータもきらい。


テンション下がりながらも、手荷物受付所に向かう。

この前の出張時にはここで辱められた。

愛犬クロマメにかじられて、僕のバックはチャックが

若干閉まらなくなっていた。

預ける際に、『破損部分にシール貼っておきますね』

って優しく言ってくれる某社受付カウンター嬢。

着いた先で荷物を取ろうとしたら、チャックの部分に

【損傷確認!】てめちゃでかいステッカー貼ってあったよ。

黒マジックで手書きだからかなりのインパクト。

同僚や上司にも『残念なバックだね。』って言われたよ。

せめて【クロちゃんのかじられ跡】とか、

【チャック若干機嫌悪いです】とか、

可愛い感じに書いてほしかったよ。


しかし今日は違った。

受付カウンターへ近づくと様子が

おかしい。

僕『東京まで。(株主優待券でチケットを買っていた僕は

  若干株主の匂いを見せつけようとクールを装う。)』


受付嬢『すいません、本日満席になって。。。』


僕『え、予約してるし、まだ20分前ですよ。』


受付嬢『座席数以上に予約数をとっているため、

『このようなことになってしまいました。。』


僕『ほー。ほー。』


色んなことが頭に浮かんだ。

一生懸命、仕事を切り上げ、

一生懸命、車を走らせ、

一生懸命、飛行機で飲むお茶を選び、

一生懸命、トイレにいきたくならないように

無理にトイレに行ったりもした。なのに。。。


受付嬢『ギリギリまでお待ち頂ければキャンセルが

     でるかもしれません。もしくは名古屋行きに今すぐ

     乗って頂き、新幹線で東京へ向かうという手段も

     あります。大変申し訳ございません。。。』


僕『名古屋経由はあまりにもストイックなので、まずは待ちます』


周りを見れば僕のほかに2名待っている。

30代女性(メガネフレーム太)、オジサン(酒持参)


目があっただけでもキレてもいい状態の3人が

イスに腰掛けている。

どいつがキャンセル待ちをゲットするのか

まるで監視しあってる僕ら。


受付嬢達も僕らをチラチラ観察して

誰がこの3人を応対するか決めているようだ。


どっからどう見ても、酒オジサンと、

僕(イカしたジャケットに襟立ちシャツ)が

キレそうだ。メガネフレームは簡単そうだ。


ついに受付嬢が動いた。チーフクラスが僕に来た。

やはりチャラ男に見えたか。それとも

株主優待券が効いたか。


受付嬢チーフクラス『残念ですが、本日は満席のままです。

明日に振り替えさせて頂きます。。大変申し訳

ございません。。もうしわけ。。。ございません。』


さすがチーフクラス。涙目だ。

心から謝っているのがよくわかる。

あまりにこういうことに慣れてる人は

演じてるのがすぐわかる。けどこの人は

違った。うまく自分の思いを説明出来ないその人の

優しさが伝わってきた。


このマジキレしていい状態だけど、

僕はキレることは出来なかった。この人も、予約の人の

キャンセル数を見込み違えて、ギリギリまで利益をとろう

とした会社のせいで、大変な仕事押し付けられてんだよ

なぁって思った。いつも大変なことを押し付けられるのは

現場なんだ。だから僕はこの人を喜ばせたいと思った。


僕『マジっすか。ちょうど、ハンパない強風と雨で、

  僕、飛びたくないって思ってたんですよ。

  特に急ぎでもないし、東京で待ってる人もいないので

  大丈夫ですから』


お土産を両手一杯に抱えて、若干無理があったけど、 

僕なりに精一杯喜んでもらえるように頑張った。

けっこうな現金を頂き、さらに

『バス代3000円もお支払いします』と言われたけど、

僕は思いっきりカッコつけて、

『大丈夫です。車できたので。』って

断った。完全に自分に酔いしれた瞬間だった。

後から考えると、やっぱりガソリン代として

もらっとけばよかったと思ったあまりに小さい自分が

いた。


酒オジサンも見た目とは違い、丁寧に他の受付嬢

に応対していた。あのお酒、ホテルで一人で飲むのかな。


予想しなかったのは、メガネフレームだ。

メガネフレームは、

『私は2ヶ月前にチケット取ってたのよ!!(怒)』と、

セカチューの『助けてください!』以上に声が響いていた。

最後まで『絶対乗るわよ!(激)』と叫んでいた。

あの勢いなら乗れたのかもしれない。見てるだけで

気分悪くなった。飛行中にお前のとこだけ、酸素吸入器が

上から落ちてこいと心から思った。

けど、メガネフレームにだって東京で待ってる

メガネがいるかもしれないし、明日仕事があるのかも

しれない。そう思うと、酸素吸入器は落ちないで欲しい

と思った。


時に、企業のベクトルと顧客満足は相反する。

利益と顧客満足のバランスを持って企業は

成長していかなければならない。

環境問題と同じ。企業の戦略マーケティング

と環境問題への対応は時に相反する。

企業は環境を汚して成長している面もあるし、

何よりリサイクルや環境保護への設備投資は

企業収益を圧迫する。現段階では、ただの

イメージアップの一環だ。

相反する状態を切り抜いていくバランス感が

求められてる。


メガネフレームはもうこの航空会社を使わないかも

しれないし、人にどんどん広めるかもしれない。

キレられた受付嬢も今日は眠れないかもしれない。

完全にlose-loseの関係だ。誰も幸せじゃない。

あえて言うなら、キャンセルによる空席を出すことなく

満席で飛行機を飛ばせた航空会社か。

まぁ長い目で見れば、間違えなくLOSEだな。


僕は時間を失ったけど、お金と自分に酔いしれる瞬間を

手に入れて、今日の自分の応対には満足だった。

相手のチーフ受付嬢はどうだったんだろ。楽な客だったくらい

しか思ってないかもしれない。それでも別にいいや。

これからも仕事や、生活や色んな場面で、

人に優しくしていくんだ。